発注初日に起きること——実案件のやり取りの流れ
この案件で、発注確定から数時間のあいだに実際にやり取りされた内容は次のとおりです。
- 業者から: 必要な共有物3点の依頼——対象データが入ったフォルダの共有、業務で使うサービスの管理権限、処理のきっかけになるメールの受信環境
- 発注側から: 制約の申告——「個人情報が含まれるため、URLを知っていれば誰でも見られる共有はできない」
- 業者から: 代替手段の提示——全体公開のリンク共有ではなく、業者のアカウントを個別に追加する方式へ変更
- 発注側から: 業務フローの詳細共有——完成形のサンプル、転記してほしい項目の一覧、連動してほしい既存シート
- 業者から: 仕様の確認5点と改善提案2点——後述します
注目してほしいのは、発注側が「個人情報があるので全体公開はできない」と制約をすぐ申告したことです。これにより初日のうちに安全な共有方式へ切り替えられました。制約の申告が遅れると、作りかけの仕組みを共有方式ごと作り直すことになります。
事前に準備しておくとスムーズなもの
実案件のやり取りから逆算した、発注前の準備リストです。完璧でなくて構いません。「無いものは無い」と分かっていること自体に価値があります。
| 準備するもの | 内容 | 無い場合 |
|---|---|---|
| 現状業務の流れ | 何がきっかけで始まり、誰が何をどこに入力しているか | 口頭説明でも可。業者が図に起こす |
| 完成形のサンプル | 「最終的にこうなっていてほしい」実物の例(シート・フォルダ・帳票) | 既存の手作業の成果物がそのままサンプルになる |
| 対象データの実物1件 | 処理対象になるメール・ファイルの実例 | これだけは必須。仕様が確定できない |
| 各サービスの管理権限 | 誰がアカウントの管理者か、権限を出せる人が社内にいるか | 先に確認しておかないと初日に止まる |
| 制約・禁止事項 | 個人情報の扱い、共有してはいけないもの、触ってほしくない箇所 | 後出しになるほど手戻りが大きい |
特に「対象データの実物」は重要です。この案件でも、注文メールの実物1通が届いて初めて仕様が確定しました。実物なしで作られた仕組みは、実物が来た瞬間に壊れます。
業者から必ず確認されること——曖昧さが手戻りになる
この案件で弊社が発注側に確認した項目は、そのまま「発注前に社内で決めておくとよいこと」のリストになります。
確認1: 基準になる日付・数字はどれか
「納品日の4週間前を入稿日にしたい」という要件がありましたが、確認するとその基準になる日付が、処理対象のメールには存在しないことが分かりました。人間は「だいたいこの日」と暗黙に補完して作業できますが、自動化は基準が明文化されていないと作れません。「〜から逆算」系の要件は、逆算の起点がデータのどこにあるかまで確認されます。
確認2: 営業日の数え方
「5営業日前」の営業日に祝日を含むかどうかは、会社によって違います。小さな確認に見えますが、締切や発送日の計算が全件ずれる話なので、必ず聞かれます。
確認3: 例外時にどうするか
「注文の種類によって使うシートが変わる」「ページ数がオプションで増えることがある」——通常パターンの外側で何が起こり得るかは、日々業務をしている発注側にしか分かりません。例外を1つ伝え忘れると、その例外が来た日に仕組みが止まります。「普段と違うパターンは何がありますか」と聞かれたら、思いつく限り挙げてください。
良い業者を見分けるサイン——言われた通りに作らない
発注初日のやり取りには、業者の質が表れます。この案件で弊社が行った提案を例に、見分けるポイントを2つ挙げます。
1つ目は、破壊的な操作を可逆な操作に置き換える提案があるか。「不要になったシートのタブは削除してほしい」という要望に対し、弊社は「削除ではなく非表示にする」方式を提案しました。間違いがあったときに元へ戻せるからです。言われた通り削除で作ることは簡単ですが、運用が始まってからの事故コストは発注側が払うことになります。
2つ目は、入力ミスが起きない構造の提案があるか。手入力のフォームは表記ゆれ(「株式会社」の有無、全角半角など)が必ず起きます。この案件では、事前に分かっている情報を入力済みにしたフォームを自動送付する方式を提案しました。「ミスをしないよう注意する」ではなく「ミスが構造的に起きない」形に寄せる提案が出てくるかは、業者の経験値を測る良い指標です。
逆に、こちらが何を伝えても「できます」「承知しました」だけで確認質問が返ってこない場合は注意してください。確認の質問は、あなたの業務を理解しようとしている証拠です。自動化の始め方全般は業務自動化は何から始める?、費用の考え方は業務自動化の費用相場ガイドもご覧ください。
「何を準備すればいいか」の段階からご相談ください
TOTONOでは、要件が固まっていない状態からのご相談を歓迎しています。現在の業務の流れを伺いながら、自動化する範囲・残す範囲・必要な準備物を一緒に整理するところから始めます。
AIに30秒で試す →よくある質問
Q. 要件がまとまっていない状態で相談してもよいのでしょうか?
問題ありません。むしろ「現状の業務の流れ」と「困っていること」だけ持ってきていただければ、要件への整理は業者側の仕事です。危険なのは、まとまっていないのにまとまっているように見せた要件書です。決まっていないことは「決まっていない」と伝えたほうが、正確な見積もりと設計につながります。
Q. 発注後に要件を追加したくなったらどうすればよいですか?
早めに、遠慮なく伝えてください。この実案件でも発注翌日までに「新しい注文プランの追加」「別シートへの連動」という追加が2件ありましたが、実装前だったため設計に吸収できました。追加が有償になるか範囲内かはケースによりますが、伝えるのが遅いほど選択肢は減ります。誠実な業者なら「範囲内で対応」「別見積もり」の線引きを都度明示します。
Q. 個人情報を含むデータはどこまで業者に渡すことになりますか?
全体公開のリンク共有ではなく、業者のアカウントを個別に権限追加する方式が基本です。さらに、データの保管先(メールの転送先アカウントなど)を発注側の名義で用意し、業者はそこに権限をもらって作業する形にすると、契約終了後もデータが自社の管理下に残ります。「なぜその共有方法なのか」を説明できない業者には注意してください。
Q. 初日のやり取りにはどのくらい時間を取られますか?
この実案件では、発注確定から必要物が揃うまで約4時間、発注側の実作業は権限共有と質問への回答で合計1時間程度でした。テキストのやり取りだけで完結しており、打ち合わせの日程調整は発生していません。事前準備リストの内容が揃っていれば、さらに短くなります。
