PPAPの代替手段は「相手を指定した共有リンク」|まず30秒で答える
最初に30秒で答えます。PPAPとは、パスワード付きZIPファイルをメールに添付して送り、続けて同じメールでパスワードを送る方式の俗称です。その代替としていちばん現実的なのは、ファイルをクラウドに置き、相手を指定した期限付きの共有リンクで渡す方法です。移行は次の3つの手順で進めます。
- 1. やめる:パスワード付きZIPでの送付を社内でやめると決める
- 2. 替える:社外へのファイルの受け渡しを、相手を指定した期限付きの共有リンクに置き換える
- 3. 伝える:取引先に方針変更を連絡する。本記事の後半に、そのまま送れる文例を載せています
共有リンクが本命である理由は、仕組みの違いにあります。添付ファイルは、送った瞬間にファイルの実体が相手の手元に渡ります。宛先を間違えても取り戻せません。一方、相手を指定した共有リンクなら、指定した本人以外はリンクを開けず、送った後からでも権限を外せます。
次の章で、政府までがこの方式を廃止した理由を一次情報で確認します。
なぜPPAPの廃止が進むのか|3つの問題点を一次情報で確認する
2020年11月、当時のデジタル改革担当大臣が記者会見で、内閣府・内閣官房において、メール添付ファイルの自動暗号化ZIP(パスワードを同じ経路で自動送付する方式)を同月26日から廃止すると表明しました。会見では、この方式は「セキュリティ対策の観点からも、受け取る側の利便性の観点からも、適切なものではない」とされ、機密性の高いファイルはパスワードを「全く別の経路」で知らせることが適切だと説明されています(出典:内閣府「平井内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和2年11月24日」)。
問題点1:同じ経路で送るパスワードは、守りになっていない
ZIPを暗号化していても、パスワードが同じメール経路を数十秒後に通るなら、守りにはなりません。メールの経路や受信箱が第三者に見られている場合、ZIPとパスワードは揃って見られます。誤送信でも同じで、ZIPを間違えた相手に送った人は、ほとんどの場合パスワードも同じ操作で同じ相手に送ります。手間は2倍かかるのに、守りはほぼ増えていない。これが廃止の理由の中心です。
問題点2:暗号化ZIPは、ウイルスチェックをすり抜ける
次の問題は、攻撃側がこの方式を使ってくることです。IPA(情報処理推進機構)は、マルウェア「Emotet」の攻撃メールでパスワード付きZIPファイルが使われた事例について、「この手口では、添付ファイルが暗号化されていることから、メール配送経路上でのセキュリティ製品の検知・検疫をすり抜け、受信者の手元に攻撃メールが届いてしまう確率が高く、より注意が必要です」と解説しています(出典:IPA「相談急増/パスワード付きZIPファイルを使った攻撃の例」(2020年9月2日))。
パスワード付きZIPのやり取りが日常になっている職場ほど、攻撃者の送ってきた不正なZIPも「いつもの取引先のファイル」に見えてしまいます。PPAPの習慣そのものが、攻撃メールの通り道を広げているのです。不審なメールと添付ファイルの確認手順は、この連載のフィッシングメールの見分け方で詳しく書いています。
問題点3:受け取る側の手間が大きい
受け取る側は、2通のメールを突き合わせ、パスワードをコピーし、ZIPを解凍してはじめて中身を見られます。前述の会見でも、セキュリティとあわせて「受け取る側の利便性」が廃止の理由に挙げられています。相手の時間を奪う方式を「礼儀」として続ける理由は、もうありません。
代替の本命「共有リンク」の設定|相手と期限を絞る
置き換え先の考え方はシンプルです。ファイルをメールに乗せるのをやめて、クラウドストレージに置き、そこへのリンクを送る。このとき守るべき要点は3つだけです。相手を指定する・期限を付ける・権限は最小にする。
Googleドライブでの設定手順(2026年10月時点)
Googleドライブの場合、ファイルを選んで「共有」を開き、相手のメールアドレスを入力して、権限を「閲覧者」「閲覧者(コメント可)」「編集者」から選びます。社外へ資料を渡すだけなら「閲覧者」で足ります。「リンクを知っている全員」は、リンクを手に入れた人がログインなしで誰でも開ける設定のため、社外との受け渡しには使いません。また、アクセス権に有効期限を付ける機能は、仕事用・学校用のGoogleアカウント(Google Workspace)で利用でき、個人の無料アカウントでは使えません(出典:Googleドライブ ヘルプ「Google ドライブのファイルを共有する」)。
Microsoft 365(OneDrive・SharePoint)など他のクラウドにも同様の機能があります。メニュー名や使える機能はプランや仕様変更で変わるため、お使いのサービスの公式ヘルプで確認してください(本記事の手順は2026年10月時点の確認です)。
弊社の現場で繰り返し見る、移行後の落とし穴
弊社がスプレッドシート・フォーム・業務の自動化の案件で繰り返し見るのが、「PPAPはやめたのに、共有設定が開いたまま」という状態です。誰でも見られる共有設定のままの回答シート、退職者や外注先の個人アカウントで作られたまま会社が所有していないファイル、複数のサービスで使い回されている共有パスワード。共有リンクは、設定を絞ってはじめて添付より安全になります。開いたままなら、穴の場所が変わっただけです。
- 共有は「リンクを知っている全員」ではなく、相手のアカウントを指定する
- 権限は閲覧者を基本にして、編集者は本当に必要な相手だけに絞る
- 渡し終えた共有は外す。期限機能が使えるなら期限を付ける
- ファイルの置き場所は会社のアカウントにする。個人アカウント頼みにしない
前提として、クラウドのアカウント自体が乗っ取られると共有リンクごと見られてしまうため、多要素認証の設定を先に済ませてください。パスワードの持ち方は会社のパスワード管理で、退職者や外注先の権限の消し方は退職者のアカウント削除チェックリストで解説しています。公開状態のファイルの洗い出し方は、この連載で後日取り上げます。
取引先への伝え方|そのまま使える連絡文例と、求められたときの受け方
社内の移行よりつまずきやすいのが、社外への説明です。黙って共有リンクに切り替えると、「添付で送ってもらえますか」と差し戻されて、結局元に戻ってしまいます。先に方針を一文で伝えておくと、移行は格段に進めやすくなります。次の文例は、調整してそのまま使えます。
いつもお世話になっております。弊社では情報セキュリティ強化の一環として、〇月〇日より、パスワード付きZIPファイルをメールで送付し、パスワードを別メールでお送りする方式(いわゆるPPAP)を廃止いたします。今後、ファイルは閲覧者を指定したクラウドの共有リンクでお送りいたします。リンクの受け取りに支障がある場合や、別の受け渡し方法をご希望の場合は、お手数ですがご連絡ください。
ポイントは、廃止の宣言だけで終えず、相手に合わせる余地を残すことです。
取引先から「パスワード付きZIPで」と求められたときの受け方
相手の社内規程でパスワード付きZIPが決まっている場合もあります。その場合は無理に説得せず、次の順で提案してみてください。第一に、相手が指定する受け渡し方法(相手側のクラウドや受け渡しシステム)に合わせる。第二に、どうしてもZIPで送る必要があるなら、パスワードをメール以外の経路(電話、普段使っているチャットなど)で伝える。前述の政府の会見でも、パスワードは「全く別の経路」で知らせることが適切とされています。
受け取る側としての注意
自社が受け取る側になる場面では、心当たりのないパスワード付きZIPは開かない、を社内の共通ルールにしてください。前述のとおり、暗号化ZIPはウイルスチェックをすり抜けて受信箱まで届きます。「取引先の名前を名乗っているから」は、開いてよい理由になりません。送信元の実アドレスと普段のやり取りの文脈を確かめ、不審なら正規の連絡先に別経路で確認します。
今日からの手順と続け方|誰が・何を・何分で
移行の作業を、着手の順番に並べます。いずれも、いま使っているクラウドの範囲でできるため、追加費用はかかりません。
| いつ | やること | 担当 | 所要時間 |
|---|---|---|---|
| 今日 | 「パスワード付きZIPでの送付をやめる」と決めて社内に周知する | 経営者 | 15分 |
| 今週 | 社外にファイルを送っている業務を書き出し、共有リンクでの受け渡しに置き換える | 各担当者 | 棚卸し30分+置き換え1時間 |
| 今週 | 取引先へ方針変更の連絡文を送る(本記事の文例を調整) | 取引先の窓口担当 | 30分 |
| 今月 | 共有リンクの運用ルール(相手指定・期限・権限は閲覧者から)を1枚にまとめる | 総務・情報システム兼務者 | 60分 |
続け方も1行で足ります。月に1回、発行した共有リンクを棚卸しして、渡し終えた共有を外す。期限機能が使えるなら、共有時に期限を付ければこの手間も減らせます。
PPAPの廃止は、それ単体で終わる話ではなく、「メールにファイルと情報を乗せない」という方向への一歩です。情報漏えいの原因全体のなかでメールのミスがどの位置にあるかは、連載初回の情報漏えいの原因ランキングで整理しています。メールの誤送信そのものを仕組みで減らす方法や、クラウドの共有設定の総点検は、この連載で別途取り上げます。
本記事の内容は、2026年10月時点で公表されている資料をもとに編集部が整理したものです。最新の情報は各出典でご確認ください。
ファイルの渡し方を替えたら、共有設定とサイトも点検する
PPAPをやめて共有リンクに移すと、今度はクラウドの共有設定そのものが守りの要になります。自社の設定がどうなっているかは、外から見ないと気づけません。セキュリティ診断は5,000円(税抜)の固定料金で、サイトのURLだけで始められます。点検後の更新・バックアップ・監視は、月額9,800円(税抜)からの保守で引き受けます。
セキュリティ診断の内容を見る →よくある質問
Q. PPAPとは何ですか?なぜ問題なのですか?
パスワード付きZIPファイルをメールに添付して送り、続けて同じメールでパスワードを送る方式の俗称です。パスワードが同じ経路を通るため盗み見や誤送信に対する守りがほとんど増えないこと、暗号化されたZIPはメール経路上のウイルスチェックをすり抜けること、受け取る側の手間が大きいことが問題とされ、2020年11月には内閣府・内閣官房が廃止を表明しました。
Q. 無料の個人向けGoogleアカウントでも、期限付きの共有リンクは使えますか?
アクセス権の有効期限を設定する機能は、仕事用・学校用のGoogleアカウント(Google Workspace)向けで、個人の無料アカウントでは使えません(2026年10月時点のGoogle公式ヘルプで確認)。個人アカウントで運用する場合は、相手を指定して共有し、渡し終えたら手作業で共有を外す運用にしてください。月1回の棚卸し日を決めておくと外し忘れを防げます。
Q. 取引先に「パスワード付きZIPで送ってほしい」と言われたら、どうすればよいですか?
無理に説得せず、相手が指定する受け渡し方法に合わせるのが第一候補です。どうしてもZIPで送る場合は、パスワードをメール以外の経路(電話や普段使っているチャットなど)で伝えます。政府の廃止表明でも、パスワードは全く別の経路で知らせることが適切とされています。
Q. ファイル転送サービスを使ってもよいですか?
選択肢になります。選ぶときは、相手を限定できるか(URLを知っていれば誰でも取得できる方式か)、保存やリンクに期限を付けられるか、誰がいつ取得したか記録が残るか、会社として契約して管理者が利用状況を把握できるか、を確認してください。個人が無料サービスを各自の判断で使う形は、会社がファイルの行き先を把握できなくなるため避けたいところです。
